📗 授乳編 PROTOTYPE
薬剤師りーこの授乳服薬指導 教科書
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CHAPTER 1

母乳と薬の基礎理論

M/P比・RID・乳児曝露量
授乳期PKを「数字で評価する」3つの指標
りーこ先生

📌 この章の結論(3行)

  1. 授乳期PKの3指標:M/P比(母乳/血漿比)・RID(相対的乳児投与量)・乳児曝露量
  2. RID 10%未満なら原則授乳継続可。これが最も実用的な判断基準
  3. 「移行しますか?」ではなく 「どれくらい移行しますか?」 を問う薬剤師になる

第2巻の本編は、ここから始まります。授乳期の薬の判断軸として、薬剤師なら必ず押さえるべき 3つの数値指標 を学びます。これらは LactMedや論文を読む際の共通言語です。

りーこ先生
りーこ先生
妊娠期は「奇形か」「胎児毒性か」が論点でしたよね。授乳期は 「赤ちゃんがどれくらいの量を浴びるか」 が論点。定量評価 ができれば、ほとんどの薬は授乳継続可と判断できます。

1-1 M/P比:母乳と母体血漿の薬剤濃度比

M/P比(Milk-to-Plasma ratio) は、薬剤が母乳にどれくらい移行するかを示す比率です。

M/P比 = 母乳中の薬剤濃度 ÷ 母体血漿中の薬剤濃度
M/P比の値解釈
< 1.0母乳濃度 < 血漿濃度多くの薬剤
= 1.0母乳と血漿が同濃度
> 1.0母乳が血漿より濃く濃縮される(少数)リチウム・アシクロビル・メトロニダゾール

M/P比が小さいほど母乳への移行は少ない。ただし 「M/P比だけ」では授乳安全性は判断できません。なぜなら、母体血中濃度が高い薬と低い薬では、同じM/P比でも実際の移行量が違うから。RID(次節)の方が実用的です。

1-2 RID:相対的乳児投与量(最も実用的)

RID(Relative Infant Dose、相対的乳児投与量)授乳期の薬剤評価のゴールドスタンダード です。

RID の計算式

RID(%) = (乳児が摂取する薬剤量 / kg/日) ÷(母親の通常投与量 / kg/日) × 100

※乳児摂取量 = 母乳中濃度 × 1日の哺乳量(150 mL/kg/日が標準)

📌 RID判断基準

RID判断
< 10%原則 授乳継続可多くのSSRI・抗菌薬・抗ヒスタミン
10-25%慎重に評価・乳児モニタリング一部の抗てんかん薬
> 25%授乳中断 or 薬剤変更を検討リチウム・アミオダロン・抗がん剤
「10%」基準の根拠
10%この閾値未満なら通常の小児用量より低く、安全マージン十分
150mL標準乳児哺乳量 / kg / 日(計算の前提)

RIDが10%未満であれば、薬剤師は 「授乳継続可と判断されています」と自信を持って伝えられます。これがLactMedや論文の読み方の基準軸です。

1-3 乳児曝露量:絶対量で見る

RIDは「相対値」、乳児曝露量は「絶対値」。実際に 乳児が1日に飲む薬剤の量(mg/kg/日) を確認します。

乳児曝露量の計算ステップ
  1. 母乳中の薬剤濃度(μg/mL)を取得(LactMedや論文)
  2. 1日哺乳量(150 mL/kg/日)と掛ける
  3. 乳児体重で割って mg/kg/日に揃える
  4. 小児への通常投与量と比較(多くの薬で安全マージン確認可)

1-4 薬剤が母乳に移行しやすい4条件

M/P比やRIDが大きくなる薬剤の特徴は、第1巻 第3章で扱った「胎盤透過の4条件」と似ています。

条件移行
分子量小さい(< 500)移行しやすい多くの小分子薬
脂溶性高い移行しやすい抗精神病薬・ベンゾジアゼピン
蛋白結合低い遊離型が移行テオフィリン
非イオン化型細胞膜通過しやすい弱塩基性薬剤(母乳は弱酸性なのでトラップ)
分子量大きい(> 1000)移行しにくいヘパリン・インスリン・抗体製剤

授乳期も 「ヘパリン・インスリン・抗体製剤は移行しない」 という大原則は同じ。これだけでも知っていると患者対応が変わります。

1-5 「相対的にゼロ」の考え方

授乳期の判断で、薬剤師が押さえるべき発想は 「ゼロは無理だが、十分に小さい」 という現実認識です。

多くの薬剤は母乳に 微量移行します。しかし「微量」をどう評価するか。小児用量の1/100、1/1000のレベルなら、臨床的にはゼロと扱って良い。RID 10%未満はそういう意味です。

りーこ先生
りーこ先生
「移行しますか?」と聞かれたら、嘘をついて「しません」と答えないでください。「ごく少量は移行しますが、赤ちゃんへの影響はほぼゼロと評価されています。ベースラインリスクと比べてもまったく問題ないレベルです」 ——これが正解です。

📝 第1章 早見:母乳と薬の3指標

  • M/P比 母乳中濃度 ÷ 血漿濃度。<1.0が多数派。指標としては補助的
  • RID(最重要) 乳児摂取量 / 母体投与量 × 100。<10%なら原則授乳継続可
  • 乳児曝露量 mg/kg/日で小児用量と比較
  • 移行4条件 分子量↓・脂溶性↑・蛋白結合↓・非イオン化型 で移行↑
  • 移行しない3薬 ヘパリン・インスリン・抗体製剤
  • 「ゼロ」発想 完全ゼロは無理。臨床的にゼロと扱える閾値を理解
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