第2巻の本編は、ここから始まります。授乳期の薬の判断軸として、薬剤師なら必ず押さえるべき 3つの数値指標 を学びます。これらは LactMedや論文を読む際の共通言語です。
M/P比(Milk-to-Plasma ratio) は、薬剤が母乳にどれくらい移行するかを示す比率です。
| M/P比の値 | 解釈 | 例 |
|---|---|---|
| < 1.0 | 母乳濃度 < 血漿濃度 | 多くの薬剤 |
| = 1.0 | 母乳と血漿が同濃度 | — |
| > 1.0 | 母乳が血漿より濃く濃縮される(少数) | リチウム・アシクロビル・メトロニダゾール |
M/P比が小さいほど母乳への移行は少ない。ただし 「M/P比だけ」では授乳安全性は判断できません。なぜなら、母体血中濃度が高い薬と低い薬では、同じM/P比でも実際の移行量が違うから。RID(次節)の方が実用的です。
RID(Relative Infant Dose、相対的乳児投与量) は 授乳期の薬剤評価のゴールドスタンダード です。
RID(%) = (乳児が摂取する薬剤量 / kg/日) ÷(母親の通常投与量 / kg/日) × 100
※乳児摂取量 = 母乳中濃度 × 1日の哺乳量(150 mL/kg/日が標準)
| RID | 判断 | 例 |
|---|---|---|
| < 10% | 原則 授乳継続可 | 多くのSSRI・抗菌薬・抗ヒスタミン |
| 10-25% | 慎重に評価・乳児モニタリング | 一部の抗てんかん薬 |
| > 25% | 授乳中断 or 薬剤変更を検討 | リチウム・アミオダロン・抗がん剤 |
RIDが10%未満であれば、薬剤師は 「授乳継続可と判断されています」と自信を持って伝えられます。これがLactMedや論文の読み方の基準軸です。
RIDは「相対値」、乳児曝露量は「絶対値」。実際に 乳児が1日に飲む薬剤の量(mg/kg/日) を確認します。
M/P比やRIDが大きくなる薬剤の特徴は、第1巻 第3章で扱った「胎盤透過の4条件」と似ています。
| 条件 | 移行 | 例 |
|---|---|---|
| 分子量小さい(< 500) | 移行しやすい | 多くの小分子薬 |
| 脂溶性高い | 移行しやすい | 抗精神病薬・ベンゾジアゼピン |
| 蛋白結合低い | 遊離型が移行 | テオフィリン |
| 非イオン化型 | 細胞膜通過しやすい | 弱塩基性薬剤(母乳は弱酸性なのでトラップ) |
| 分子量大きい(> 1000) | 移行しにくい | ヘパリン・インスリン・抗体製剤 |
授乳期も 「ヘパリン・インスリン・抗体製剤は移行しない」 という大原則は同じ。これだけでも知っていると患者対応が変わります。
授乳期の判断で、薬剤師が押さえるべき発想は 「ゼロは無理だが、十分に小さい」 という現実認識です。
多くの薬剤は母乳に 微量移行します。しかし「微量」をどう評価するか。小児用量の1/100、1/1000のレベルなら、臨床的にはゼロと扱って良い。RID 10%未満はそういう意味です。